管理されなくなった古民家、担い手を失いつつある寺院や神社、途絶えかけている祭り、受け継がれなくなりつつある地域の伝統。
後継者も資金もなく、静かに消えていく「地域資源」や「地域遺産」が、日本中で増え続けています。
「守りたい気持ちはあるけれど、引き継ぐ人がいない」──。
そんな声が各地で聞こえる中、いまDAO(分散型自律組織)という新しい仕組みが、少しずつ注目されはじめています。
単なるITやブロックチェーンの話ではありません。
この仕組みが、地域の文化や風景を“個人任せ”ではなく、みんなで支え合いながら残していく仕組みとして活用され始めているのです。
本記事では、地域資源や地域遺産の保全・継承というリアルな課題を起点に、
その解決策としての「株式会社型DAO」という新しい法人のカタチを、事例や背景とともにわかりやすく紹介します。
なぜ今、地域資源が消えつつあるのか?──文化継承のリアルな危機
かつて地域の中心だったお寺や神社、地元の人たちが力を合わせて守ってきた祭り、代々受け継がれてきた古民家や町並み。
それらは「地域資源」や「地域遺産」として、その土地ならではの歴史や文化を今に伝えてきました。
しかし今、それらが次々と姿を消しています。
理由はシンプルです。「継ぐ人がいない」「運営するお金がない」。
少子高齢化と人口流出のダブルパンチ
地方では若い世代の流出が止まらず、高齢化が進むばかり。
たとえ「残したい」という想いがあっても、実際に継承や運営に手を挙げる人が見つからないという現実に直面しています。
多くの伝統行事は、地域の長老たちが「なんとなく」受け継いできたことで成り立ってきました。
けれど今、その“なんとなく”が通用しない時代になりつつあるのです。
維持費・補修費という「見えにくい負担」
文化財や古い建物を残すには、意外とお金がかかります。
屋根の葺き替え、耐震補強、雪害や風害への対応…。そのたびに数十万〜数百万円が必要になることも。
にもかかわらず、収益を生む仕組みがない地域資源がほとんど。
クラウドファンディングで一時的にしのげても、長期的な運営の仕組みがないまま消えていくケースは後を絶ちません。
「自治体任せ」も限界
「市や町がなんとかしてくれるだろう」と思っていても、現実は厳しい。
自治体も予算・人材の余裕がなく、地域資源の保全は優先順位が後回しになりがちです。
結果として、「何もしないまま、いつの間にか失われてしまった」という事例が日本中にあります。
それでも、「残したい」気持ちはある
地元の人も、移住者も、観光で訪れた人も──
それぞれが「この風景、残したいな」と感じる場面は確実にあるはずです。
でも、気持ちだけでは続かない。
だからこそ今、「どうすれば持続可能に“残せる”のか?」という問いに、真正面から向き合う時代が来ているのです。
「守りたいのに、守れない」ジレンマと地域の声
「このお寺は、昔から地域のよりどころだった」
「小さな神社だけど、子どもの頃のお祭りの思い出が詰まっている」
「空き家になったあの町家、できれば残したいけど……」
地方に行けば行くほど、こうした“残したい”という声は確かにあります。
でも、その想いと行動の間にある深い溝が、地域資源・遺産を守れない原因となっています。
「やりたい人」はいても「引き受けられる人」がいない
「この文化財、もし管理する人がいなければ、町の歴史からも消えてしまう」
そんな危機感を持つ人がいても、いざ「じゃあ誰が管理する?」となると手が上がらない。
- ボランティアでは続かない
- 責任を背負うのが怖い
- 時間もお金も余裕がない
結局、「気になっているけど、誰かがやるだろう」と流れてしまうことが多いのです。
移住者や外部からの担い手も、孤立しやすい
最近では、地域に魅力を感じて移住してきた人や、外部からプロジェクト単位で関わる人が地域資源の保全に取り組むケースも増えてきました。
しかし…
- 地元の人との温度差
- 長年の“しきたり”や“暗黙のルール”
- 外部から来た人が主導すると起こる摩擦
こうした課題から、継続できずに終わるケースも少なくありません。
「想い」はある。でも「仕組み」がない
最大のジレンマはここです。
「残したい」という気持ちはある。
でも、それを支える“仕組み”が存在しない。
地域資源や遺産を長期的に、持続可能に、かつ誰か一人に負担を集中させずに守っていく方法が、いま強く求められています。
株式会社型DAOとは何か?地域資源・地域遺産とテクノロジーが交わる地点
「DAO(ダオ)」という言葉を初めて聞いた方も多いかもしれません。
これは“Decentralized Autonomous Organization(分散型自律組織)”の略で、中央管理者がいないまま、ルールとコミュニティによって運営される新しい組織のカタチです。
なんだか難しそうに聞こえますが、本質はとてもシンプル。
DAOは、「誰かが“所有”する」のではなく、「みんなで“参加”して“決めて”いく」ための仕組みなのです。
そもそもDAOとは?
DAOの特徴を簡単に言えば、以下のような点があります:
- 組織のルールがブロックチェーン上でプログラム化されていて改ざんできない
- 重要な決定は投票などによる民主的な合意形成で進められる
- お金の流れも透明で、世界中の誰でもアクセス可能
- 株主や社長がいない、みんなで意思決定する組織
つまり、従来の「トップダウンの会社」ではなく、ボトムアップで動く分散型のチームというイメージです。
なぜDAOが地域資源・地域遺産の保全に関係するのか?
今まで地域資源の保全といえば、
- 自治体が保有・管理
- 地元有志のNPOが運営
- 民間企業が活用しながら保存
といった方法が一般的でした。
しかし、これらはどれも特定の人や団体に大きな責任や負担が偏る構造になりがちでした。
一方DAOは、多数の参加者が共同で意思決定・運営に関わることができ、しかもそのプロセスがブロックチェーン上で透明かつ自動的に処理されるため、
- ✅ 誰か一人に負担が集中しない
- ✅ 資金も運営も“みんなごと”にできる
- ✅ 参加者が遠隔でもOK、グローバルにも開かれている
という、持続可能性のある仕組みとして注目され始めているのです。
「DAO」は便利だけど、法的に“宙ぶらりん”な存在だった
ただし、DAOにはひとつ大きな課題がありました。
それは、法人格がないということ。
- 契約ができない
- 税務申告ができない
- 銀行口座が作れない
- 万が一の責任の所在が不明
つまり、現実の社会システムの中でDAO単体では運用に限界があるのです。
そこで登場したのが「株式会社型DAO」
この課題を解決するために生まれたのが、株式会社型DAOというアプローチ。
これは、DAOの理念や仕組みをベースにしつつ、法人格として株式会社や合同会社などの形態をとるものです。
- 登記された会社としての信頼性
- 契約・銀行口座・資金調達のしやすさ
- 一方で、ガバナンスや収益配分にDAO的仕組みを活用
つまり、リアル社会の信頼性と、Web3的な分散性・透明性を兼ね備えた組織形態です。
地域資源や地域遺産の保全・活用において、「想いのある人たちが負担なく集まり、透明に協力し合える」仕組みとして、今、株式会社型DAOがじわじわと注目されているのです。
従来の手法と何が違うのか:補助金・NPO・自治体とDAOの比較
地域資源や地域遺産の保全・活用には、これまでにもさまざまな取り組みが行われてきました。
具体的には、
- 自治体による管理・支援
- NPOや住民団体によるボランティア活動
- 国や地方からの補助金・助成金活用
- 地元企業や個人による寄付・協力
などが代表的です。これらの手法にはもちろん実績もあり、多くの文化・資産を守ってきました。
しかし同時に、限界も見えてきています。
自治体:限られた予算と人材
- 予算が限られており、すべての資源をカバーできない
- 保全に優先順位がつき、手が回らない場所が出る
- 担当者が異動すれば方針が変わる
さらに、「市がやるなら私たちは関わらなくていい」と、地域の主体性が弱まってしまうリスクも。
NPO・住民団体:熱意に支えられた仕組みの脆さ
- 少人数で運営(高齢化しやすい)
- ノウハウや資金が不足
- 引き継ぎが難しく“1代限り”で終わる
情熱があるからこそ成り立っている反面、属人的で持続性に乏しいという構造的な課題を抱えています。
補助金:一時的には有効。でも継続が難しい
- 手続きが煩雑で、ハードルが高い
- 「もらって終わり」になりがち(事後の仕組みがない)
- 継続性のあるビジネスモデルにつながらないことが多い
つまり、「点」は作れても「線」や「面」にはなりにくいのが実情です。
DAOはどう違うのか?
これらの課題に対して、DAO(特に株式会社型DAO)は新しい選択肢を提示します。 比較項目 従来の手法(自治体・NPO等) 株式会社型DAO 主体 特定の人・団体に依存 分散的で多様な参加者 意思決定 担当者や理事が中心 投票やスマートコントラクトで運用可能 資金調達 助成金・寄付中心 トークン・出資・収益モデル等の選択肢あり 持続性 担い手の高齢化・属人化で不安定 仕組みで継続できる可能性が高い 透明性 閉鎖的になりやすい ブロックチェーンで高い透明性
DAOは、「誰かがやる」から「みんなでやる」へという仕組みの転換を可能にします。
その意味で、これまでのアプローチを否定するのではなく、足りなかった“持続性と分散性”を補う補完的な手段として活用できるのです。
すでに始まっている事例:地域資源・地域遺産をDAOで運営する国内外プロジェクト
「DAO」と聞くと、テクノロジー業界や暗号資産の世界だけの話だと思われがちです。
しかし今、地域資源や地域遺産の保全・活用にDAO的な仕組みを取り入れたプロジェクトが、国内外で少しずつ動き始めています。
ここでは、実際に始まっているDAO活用の事例をいくつか紹介します。
事例①:京都・丹後「Ubusuna DAO」
京都・丹後地方の里山地域で展開されている「Ubusuna DAO(うぶすなダオ)」は、地域の空き家や棚田といった“土地の記憶”を守るためのDAOプロジェクトです。
- 空き家の利活用、農地の共同運営
- トークンを通じた意思決定と資金循環
- 地元住民×外部クリエイター×DAO参加者の協働体制
単なるブロックチェーンの実験ではなく、文化や風景の継承をDAOという形で実装しようとしている先進例です。
事例②:徳島・神山町の文化的活動支援DAO(構想中)
徳島県神山町では、空き家再生・アートプロジェクトなどを通じて、地域の魅力を再構築する取り組みが進んでいます。
現在、一部の有志が「DAO的な資金・ガバナンスの仕組み」を取り入れようとしており、将来的には地域遺産の保全にもつながる可能性があります。
- アート×地域×DAOという文脈で注目
- 地域外の支援者も“当事者”として関われる仕組みを模索中
まだ実装段階ではないものの、DAOによる文化継承の応用可能性を示す動きです。
事例③:CityDAO(アメリカ・ワイオミング州)
CityDAOは、米ワイオミング州で「DAOが所有・運営する都市空間を作る」ことを目指して設立されたプロジェクトです。
- 州政府から土地を購入(法的にDAOとして認められた初の事例)
- 土地の使用や運営方針をコミュニティで決定
- NFTを通じた参加権の分配
規模は大きく異なりますが、「場所や資産をDAOで共有・運営する」という発想は、地域遺産の保全とも通じるものがあります。
事例に共通するポイント
- DAOの技術や仕組みが“手段”として使われている
- 参加者が地元住民に限らず、多様な形で関わっている
- お金と意思決定の流れが透明で、持続可能性を意識している
DAOを「最新テクノロジー」としてではなく、「仕組みの再設計」として地域の課題に応用し始めている。
そんな事例が、静かに増え始めています。
株式会社型DAOのつくり方と運営の現実(※あえて軽めに)
「じゃあ実際、どうやって始めるの?」
ここで細かい技術論に入ると、話が一気に遠のいてしまいます。
なのでこの章では、地域資源・地域遺産に使う前提での“現実的な全体像”だけを押さえます。
基本構造はシンプル
株式会社型DAOは、ざっくり言えば次の二層構造です。
- 表の顔:株式会社(または合同会社)
- 登記する
- 契約する
- 口座を持つ
- 法的責任を負う
- 中身の運営:DAO的な仕組み
- 重要な意思決定を投票で行う
- 資金の使い道を透明化する
- 地域外の支援者も参加できる
DAOが「理想」、株式会社が「現実」を担当する、と考えると分かりやすいです。
誰が立ち上げるのか?
多くのケースで現実的なのは、
- 地元の有志数名
- 移住者や外部プレイヤー
- すでに活動している団体の一部メンバー
この少人数が最初の法人責任者になる形です。
ここで重要なのは、「すべてを背負う覚悟」ではなく、あとから参加者を増やせる設計にしておくこと。
DAOは最初から大人数で始める必要はありません。
お金はどう回すのか?
地域資源・地域遺産向けDAOでは、次のような組み合わせが現実的です。
- 利活用による収益(宿泊、イベント、体験など)
- 応援型の参加(会費・トークン・NFTなど)
- 一部補助金・助成金との併用
重要なのは、「儲けること」よりも継続できる最低限のキャッシュフローを作ることです。
DAOは「万能装置」ではない
ここは強調しておきます。
- 人間関係の摩擦が消える
- 合意形成が楽になる
- 地域課題が自動で解決する
そんなことはありません。
DAOはあくまで、「決め方」と「お金の扱い方」を可視化・分散する道具です。
法的な課題・ガバナンス・地域との向き合い方(※ここは厳しめに)
ここからは、夢の話ではなく現実の話です。
日本ではDAOは「グレー」ではなく「未整備」
日本の法律上、DAOという存在はまだ明確に定義されていません。
- DAOそのものは法人ではない
- トークン=株式ではない
- 投票=会社法上の意思決定とは限らない
つまり、DAOを前提にした運営は常に法解釈リスクを伴うということです。
株式会社型DAOは、そのリスクを「完全に消す」ものではありません。
「実務を会社に寄せて、DAOを補助線として使う」ための工夫に過ぎません。
ガバナンスを甘くすると必ず揉める
DAOは民主的に見えますが、設計を誤ると逆効果になります。
- 声の大きい人に引きずられる
- 投票が形骸化する
- 地元と外部参加者が対立する
特に地域では、「誰が決定権を持つのか」を曖昧にすると確実に問題が起きます。
だからこそ、
- 最終責任は法人が持つ
- DAO投票は「反映ルール」を明確にする
- すべてを投票で決めない
この割り切りが必要です。
地域との関係を壊すリスク
最も注意すべきなのはここです。
DAOは外部から人とお金を呼び込みます。
それは同時に、
- 「勝手に決められている」という不信感
- 「外の人に奪われる」という恐怖
- 「よく分からない仕組み」への拒否反応
を生む可能性もあります。
地域資源・地域遺産は、テクノロジー以前に“人のもの”です。
DAOを導入するなら、技術よりも先に、説明・対話・合意を重ねる覚悟が必要です。
まとめ:それでもDAOは「選択肢」になり得る
DAOは魔法ではありません。導入すればすべてが解決する仕組みでもありません。
それでもなお、DAOが注目されている理由があります。
- 誰か一人に背負わせない
- 想いを持つ人が、場所を越えて関われる
- 「残したい」を仕組みにできる
後継者も資金もない。
でも、確かに残したい地域資源や地域遺産がある。
そのとき、DAOは「正解」ではないかもしれない。
でも、「考える価値のある選択肢」にはなり得る。
この視点を持てるかどうかが、これからの地域の未来を大きく分けていくのかもしれません。
